EMBRACE 感性コラム | 支える人の自己理解シリーズ | Vol.02
DISCOMFORT
違和感とは?
「何かおかしい」と感じる理由と
自己理解へのつなげ方
「なんとなく苦しい」「何かが違う」。
まだ説明できない感覚にも、目を向ける意味があります。
自分の状態を確認するために
心や身体から送られてくる
最初のサインと捉えています。
違和感は、正解や間違いを示す結論ではありません。
「一度、立ち止まって確認してほしい」という手がかりです。
前回のコラムでは、人を支える仕事の中で、自分の感情を整えながら求められる態度を保つ「感情労働」について取り上げました。今回考えるのは、その働き方や人間関係の中で現れることがある、違和感です。
違和感は、とても曖昧です。痛みのように場所を示せるわけでもなく、怒りや悲しみのように、感情の名前をすぐにつけられるとも限りません。そのため、多くの人が「気のせい」「考えすぎ」として、なかったことにしてしまいます。
けれど、言葉になっていないからといって、意味がないわけではありません。違和感は、自分の内側で何が起きているのかを知るための、小さな入口になることがあります。
違和感とは何か
違和感とは、目の前で起きていることと、自分の内側の感覚とが、どこか噛み合っていないときに現れる反応の一つです。
Embraceでは違和感を、目の前の状況と、自分の感情・価値観・身体感覚との間に生まれる、まだ言葉になっていない小さなズレと定義しています。
たとえば、相手は穏やかに話しているのに、なぜか落ち着かない。職場では問題がないことになっているけれど、自分の中では納得できない。頼まれたことを笑顔で引き受けたものの、帰宅してから重たい気持ちが残る。
このように、違和感は「明らかな問題」として現れるとは限りません。「あれ」「何か違う」「少し引っかかる」といった、ごく小さな感覚として始まることがあります。
違和感は、言葉より先に現れることがある
私たちは、起きたことをすぐに整理し、適切な言葉で説明できるとは限りません。状況を十分に言葉で整理する前に、胸の詰まり、肩の緊張、落ち着かなさ、沈黙したくなる感覚など、心や身体の反応として現れることがあります。
その時点では理由が分からなくても構いません。「なぜそう感じたのか」は、少し時間がたってから分かる場合もあります。
違和感は、直感や不安と同じではない
違和感は、不安や直感と重なって感じられることがあります。不安は、これから起こることへの心配として現れやすく、直感は、十分な根拠を説明できないまま、ある方向を判断する感覚に近いものです。
それに対して違和感は、今起きていることと、自分の内側との間に生まれる噛み合わなさに近い感覚です。ただし、これらを厳密に切り分ける必要はありません。大切なのは、すぐに結論を出すことではなく、「自分は今、何かを感じている」と気づくことです。
違和感を感じたからといって、相手や環境が必ず間違っているとは限りません。違和感は、判断の結論ではなく、「何が起きているのかを確認するための手がかり」です。
なぜ違和感は生まれるのか
違和感が生まれる背景は、一つではありません。自分の感情と行動とのズレだけでなく、人間関係、組織の文化、価値観、役割、疲労、過去の経験など、複数の要因が重なっていることがあります。
本当の気持ちと、表に出す言動がずれている
違和感が生まれる背景の一つに、自分が本来感じていることと、その場で表に出している言動とのズレがあります。
本当は負担に感じているのに、笑顔で引き受ける。本当は傷ついているのに、気にしていないように振る舞う。本当は疑問があるのに、周囲に合わせて頷く。こうした対応は、その場を円滑に進めるために必要なこともあります。
しかし、それが続くと、「表に出している自分」と「内側で感じている自分」の間に、小さなずれが残ることがあります。
自分の価値観と、周囲の基準が合っていない
違和感は、自分の価値観と、職場や組織の方針が噛み合っていないときにも現れます。
丁寧に関わりたいのに、速さだけを求められる。安全を優先したいのに、効率を理由に省略を求められる。相手を大切に扱いたいのに、数字や成果だけで評価される。
このような違和感は、個人の考えすぎではなく、役割や組織の構造によって生じている場合もあります。
相手の言葉と行動が一致していない
「あなたのため」と言われているのに、尊重されている感じがしない。「自由に意見を言ってよい」と言われているのに、反対意見を出すと空気が変わる。このように、言葉と実際の行動が一致していないときにも、違和感は生まれます。
ただし、この段階で相手の意図を決めつける必要はありません。言葉と行動のどこに差を感じたのかを確認することが大切です。
疲労や体調によって、感覚が変化している
睡眠不足、身体の疲れ、緊張が続く状態では、普段なら受け流せることが強く気になったり、逆に、普段なら気づけることを感じ取れなくなったりすることがあります。
そのため、違和感を理解するときには、相手や環境だけでなく、自分の体調や疲労の状態も一緒に確認することが必要です。
感情労働と違和感の関係
感情労働は、仕事の中で求められる表情や態度に合わせて、自分の感情を調整する働き方です。一方、違和感は、その働き方や周囲の状況に対して、自分の内側に現れる反応の一つです。
人を支える仕事では、相手を安心させるために、自分の疲れや戸惑いを表に出さず、落ち着いた態度を保つことがあります。それ自体は、専門職として必要な行動です。
しかし、自分の感情を確認する時間がないまま、その調整だけが続くと、「何かが合わない」「自分だけが置き去りになっている」という違和感につながることがあります。
感情労働は、人を支えるために感情を調整しながら働く、その働き方を表す概念です。
違和感は、その働き方や周囲の状況に対して、自分の内側に現れる反応の一つです。
なぜ違和感を無視してしまうのか
違和感に気づいていても、すぐに立ち止まれるとは限りません。特に、人を支える役割を担っている人ほど、自分の感覚よりも、目の前の相手や仕事を優先しやすい傾向があります。
目の前のことを優先しなければならない
看護、介護、保育、教育、相談支援などの現場では、その場で対応しなければならないことが次々に起こります。誰かが困っているとき、自分の違和感を立ち止まって考える余裕は、ほとんどありません。
そのため、「今はそれどころではない」「あとで考えよう」と、違和感を後回しにします。その判断は、その場を乗り切るためには必要なこともあります。
気にしすぎだと思われたくない
「自分だけが引っかかっているのではないか」「こんなことを言ったら、面倒な人だと思われるのではないか」。そう考えて、違和感を言葉にできないことがあります。
周囲が問題にしていないと、自分の感覚の方が間違っているように感じることもあります。
支える側には、安定が求められる
人を支える仕事では、感情に振り回されず、安定した態度を保つことが求められます。そのため、自分の戸惑いや迷いを表に出さないことが、専門性だと捉えられることがあります。
けれど、感情をそのまま行動に出さないことと、感情そのものを感じないことは同じではありません。
違和感を言葉にできないまま働き続けている人に、これまで数多く出会ってきました。それは、感覚が鈍いからではありません。目の前の相手や役割を優先し、自分のことを後回しにする力を、長く使い続けてきた結果でもあります。
違和感を後回しにし続けると起こること
違和感を後回しにすること自体が、すぐに問題になるわけではありません。ただし、自分の感覚を確認しない状態が長く続くと、次のような変化が起こることがあります。
- 自分が本当は何を感じているのか、分かりにくくなる
- 周囲の反応や評価を基準にして、自分の状態を判断するようになる
- 小さな疲れや負担に気づくのが遅くなる
- 何が嫌なのか説明できないまま、漠然とした疲労感だけが残る
- ある日突然、動けない、話したくない、何も考えたくないと感じる
これは、感情がなくなったというより、自分の感覚に注意を向ける機会が、少なくなっていた状態と考えることができます。
自分の感覚が分からなくなることを、意志の弱さとして責める必要はありません。長く支える側に立ち続けてきた人ほど、起こりやすいことです。
違和感は弱さではない
違和感を覚えると、「自分が神経質なのではないか」「もっと大らかに受け止めるべきではないか」と、自分を責めてしまう人がいます。
けれど、違和感があるというだけで、弱い、気にしすぎ、間違っているとはいえません。違和感は、自分の内側で何かが噛み合っていないことに気づくための反応の一つです。
Embraceでは、違和感を、心がまだ自分の状態を知らせようとしている証として捉えています。
心が、まだ生きている証。
これは、違和感に従えば必ず正しい、という意味ではありません。違和感を感じた瞬間に、仕事を辞めたり、人間関係を切ったり、相手を否定したりする必要もありません。
大切なのは、違和感を結論にしないことです。
「なぜ私はそう感じたのだろう」
「何が、自分の中で噛み合っていないのだろう」
「疲れや体調も影響していないだろうか」
そのように、自分と状況の両方を確認するための入口として扱います。
違和感を感じないことが、強さとは限らない
何が起きても気にせず、すぐに切り替えられる人は、強く見えることがあります。一方、細かな変化や言葉の矛盾に気づく人は、「気にしすぎ」と見られることがあります。
しかし、感じないことと、揺れても自分の行動を選べることは別です。
Embraceが大切にしているプロフェッショナルとは、感情がない人ではありません。感情があってもなお、自分の行動を選び続ける人です。
違和感に気づくことは、感情のままに行動することではありません。自分の内側で起きていることを理解したうえで、どのように行動するかを選ぶための準備です。
違和感から自己理解へ
違和感は、消すことだけが解決ではありません。違和感が何を知らせているのかを確かめることが、自己理解の入口になります。
| 違和感を打ち消し続けるとき | 違和感を確認しようとするとき |
|---|---|
| 周囲の基準だけで、自分の状態を判断する | 自分の感覚も、確認する対象として扱う |
| 「気にしすぎ」と、すぐに感覚を否定する | 「そう感じる自分がいる」と、いったん認める |
| 原因を一つに決めつける | 感情、価値観、身体、環境を分けて考える |
| 違和感をなくすことだけを目指す | 違和感が伝えていることを確認する |
| 周囲に合わせるか、すべて拒否するかの二択になる | 今できる小さな選択肢を探す |
※ 違和感に気づくことは、感じ方を正すことではなく、自分を理解するための視点を増やすことです。
違和感を言葉にするときの四つの視点
違和感をすぐに一つの原因へ結びつけるのではなく、次の四つに分けて眺めると、整理しやすくなります。
- 出来事:実際に、何が起きたのか
- 感情:そのとき、どのような気持ちがあったのか
- 身体:胸、肩、胃、呼吸などに、どのような反応があったのか
- 価値観:自分が本当は、何を大切にしたかったのか
たとえば、「会議で発言できなかった」という出来事があったとします。
感情は、不安だったのか、悔しかったのか、諦めだったのか。身体は、喉が詰まったのか、肩が緊張したのか。価値観としては、丁寧に説明したかったのか、安全を守りたかったのか、対等に扱われたかったのか。
ここまで分けてみると、最初は「なんとなく嫌だった」という一つの塊だったものが、少しずつ自分の言葉になっていきます。
Embraceの視点|揺れる・戻る・選び直す
Embraceでは、違和感に気づき、自分の状態を確かめ、次の行動を考えるための視点として、「揺れる・戻る・選び直す」という流れを大切にしています。
これは心理療法や医学的な治療法ではなく、日常の中で自分と向き合うための、Embrace独自の考え方です。
違和感に気づいたからといって、大きな決断をする必要はありません。「今は答えを出さない」「一度持ち帰る」「明日もう一度考える」という選択もあります。
自己理解とは、自分を完全に説明できるようになることではありません。自分の中で起きていることを少しずつ知り、その時々で、自分が納得できる行動を選びやすくすることです。
今日できる違和感チェック
特別な時間を用意しなくても、一日の終わりに、次の項目を静かに眺めてみてください。
当てはまった数を評価する必要はありません。目的は、自分の一日を、自分の感覚と言葉で振り返ることです。
- 会話の途中で、「あれ」と小さく引っかかる瞬間があった
- 本当はそう思っていないのに、「大丈夫です」と答えた
- 理由ははっきりしないが、なんとなく落ち着かなかった
- 誰かの意見に、素直に頷けない自分がいた
- その場の空気を優先して、自分の感覚を後回しにした
- 一人になってから、「さっきの何かが違った」と思い出した
- 相手の言葉と行動が、噛み合っていないように感じた
- 身体が緊張していたが、その理由を考えずにやり過ごした
当てはまる項目が多いか少ないかよりも、こうして自分の感覚へ注意を戻す時間そのものが、違和感に気づくための小さな練習になります。
違和感を言葉にするための三つの質問
- 何が起きたときに、引っかかりを感じたのだろう
- そのとき、身体や気持ちは、どのように反応していただろう
- 本当は何を大切にしたかったのだろう
すぐに答えが出なくても問題ありません。言葉にならないまま、「今日は何かが引っかかった」と記録するだけでも、自分の感覚をなかったことにしない練習になります。
強い不眠、食欲の低下、動悸、気分の落ち込み、涙が止まらない、仕事や日常生活への著しい支障などが続く場合は、自己理解だけで抱え込まず、医療機関、職場の相談窓口、産業保健スタッフ、公的な相談機関などへご相談ください。本記事は、医療上の診断や治療に代わるものではありません。
まとめ
違和感とは、目の前の状況と、自分の感情・価値観・身体感覚との間に生まれる、まだ言葉になっていない小さなズレです。
違和感が生まれる背景には、本当の気持ちと表に出す言動とのズレ、価値観と組織の方針との違い、相手の言葉と行動の不一致、疲労や体調の変化など、さまざまな要因があります。
だからこそ、違和感を感じた瞬間に、誰かが悪い、自分が間違っていると結論づける必要はありません。
違和感は、正解を教えるものではなく、「今、自分の中で何が起きているのかを確認してほしい」と知らせる手がかりです。
違和感を無理に消そうとせず、何が起きたのか、どのような感情があったのか、身体はどう反応したのか、本当は何を大切にしたかったのかを、少しずつ言葉にしていく。その過程が、自己理解につながります。
前回の感情労働も、今回の違和感も、根にある問いは同じです。
人を支えるために、自分の感情を整え続ける中で、自分自身の状態にも気づいていられるだろうか。
今日感じた小さな引っかかりを、なかったことにしない。すぐに答えを出さなくても、そこにあることを認める。その積み重ねが、自分自身との付き合い方を、静かに変えていきます。
自分を知るための入口。
よくある質問
違和感とは何ですか?
違和感の正体は何ですか?
違和感を無視するとどうなりますか?
違和感があるのは、気にしすぎだからですか?
違和感と感情労働には、どのような関係がありますか?
違和感から自己理解を深めるには、どうすればよいですか?
EMBRACE SERIES
支える人の自己理解シリーズ
感情労働から生まれる疲れや違和感を、
自己理解と、自分で行動を選ぶ力につなげていく連載です。

