感謝されないとつらいのはなぜ?「ありがとう」で自分を採点していた私

Embrace Quiet

頑張っても報われないと感じるのはなぜ?
「ありがとう」が自分の価値になっていた人へ

看護師、介護士、教員、保育士、相談職、接客業、管理職――
人のために働く人ほど、静かに消耗している理由があります。

この記事の要点

感謝されない日があっても、それはあなたの価値が減ったという意味ではありません。 「ありがとう」は仕事の手応えを感じやすい言葉ですが、その有無だけで自分を採点してしまうと、静かに消耗していきます。 この記事では、相手の反応と自分の価値が結びついていたことに気づき、 自分を採点してきた基準を見直すための視点を、30年以上の現場経験からお伝えします。

01 「ありがとう」に救われてきた、その記憶

ケアを仕事にしている人、接客を仕事にしている人、教育を仕事にしている人なら、きっと覚えているはずです。

手間のかかる仕事でも、たった一言の「ありがとう」で、疲れが溶けていく瞬間があったこと。

忙しさの中で、誰にも気づかれていないと感じていた日に、その一言だけが、自分の存在を確かめさせてくれたこと。

「ありがとう」は、たしかに人を支える言葉です。それ自体は、何も間違っていません。

けれど私はいつしか、その言葉の「受け取り方」の中に、少しずつ違う何かを積み重ねていました。

02 気づけば、加点と減点で自分を採点していた

「ありがとうと言われない私は、価値がない」

そんなOS(心の基本設計)で、私は生きるようになっていました。

ありがとうをもらう日 加点
何も言われない日 減点
クレームがあった日 大幅減点

誰かに命じられたわけではありません。指導された記憶もありません。 それでも、いつの間にか自分の中に、そういう採点表ができあがっていました。

対価を受け取っている以上、それで仕事としては成立している。 頭では、そう理解していました。

それでも、相手が反応できる状態にあるのに、何も言葉が返ってこないと――

「大丈夫だったかな」
「何か、足りなかったかな」

と、不安になる自分がいました。

今振り返ると、感謝されたかったのではありません。 相手の反応がなければ、自分の仕事を、自分自身で評価することができなかった。 ただ、それだけのことでした。これが、私のOSだったのです。

これは、看護師や介護士、教員、保育士、相談職など、 日々「他者のために」動く仕事に就く人に、とても起こりやすい心の構造です。

感情労働とは、仕事上求められる表情や態度に合わせて、 自分の感情を調整しながら人と関わる働き方を指します。 看護・介護・教育・接客などでは、自分が疲れている日でも、 相手に安心や丁寧さを届けることが求められます。

Embraceでは、そこから起こるもう一つの変化にも注目しています。 「ありがとう」が仕事の手応えから、自分の価値を判定する材料へと変わってしまうことです。 それは弱さではなく、真面目に人と向き合ってきた人ほど陥りやすい、 静かな構造の問題だと考えています。

03 なぜ「ありがとうがない日」に自分を減点してしまうのか

看護師、教員、保健管理職員――私が歩いてきた仕事には、 共通してある社会的な要請がありました。

命や安全に関わる仕事だからこそ、高い責任が求められる。 それ自体は、当然のことです。

けれど私はいつしか、その社会的要請を 「100%できて当たり前」「クレームはゼロで当然」という、 自分独自の、より厳しい基準へと変換してしまっていました。 ミスをしないこと。クレームを受けないこと。 それが、プロフェッショナルの条件だと、思い込んでいたのです。

プロフェッショナルとは、
ミスをしない人ではなく、
クレームを受けない人でもなく――

でも、それは違いました。

「100%できて当たり前」という自分の基準の中で、 「ありがとう」だけを心の支えにしてしまうと、 その言葉がない日は、自分を否定する材料になってしまいます。

相手が忙しかっただけかもしれない。 相手がその日、余裕がなかっただけかもしれない。 理由は、自分以外のところにいくらでもあるのに、 私たちはそれを「自分の価値が足りなかった証拠」として、 静かに受け取ってしまうのです。

燃え尽き――バーンアウトの背景には、 業務量や人員不足、職場環境など、さまざまな要因が絡み合っています。 それでも、他者からの評価だけを頑張り続ける燃料にしてしまうと、 消耗を早める一因になり得ると、私は自分自身の経験から感じています。

04 プロフェッショナルとは、感情がない人ではない

今なら、はっきりと言えることがあります。

プロフェッショナルとは
感情がない人ではなく
感情があっても、選び続ける人。

傷つくことも、落ち込むことも、消えません。 それでも、その感情のまま相手に返すのではなく、 自分の中で一度受け止めて、次の一手を選び直す。 その繰り返しこそが、プロフェッショナルの実態なのだと思います。

感情を消すことではなく、感情に飲まれたまま反応しないこと。 揺れて、戻って、そこからもう一度選び直す。 その静かな繰り返しの中にこそ、本当の強さがあります。

05 ありがとうは、誰への贈り物か

「ありがとう」は、自分の価値を証明するものではありません。

それに気づいてから、私の中で、この言葉の意味が少しだけ変わりました。

相手からもらう「ありがとう」は、
仕事への贈り物。

自分へ向ける「ありがとう」は、
人生への贈り物。

誰にも気づかれなかった日も、クレームを受けてしまった日も、 あなたが誰かのために動いた事実は消えません。 その事実に気づき、認められるのは、最終的には自分しかいません。

「ありがとう」がなかった日は、減点の日ではありません。 それは、ただ「今日は、その言葉に出会わなかった日」というだけのことです。

ありがとうは、
言った人が一番豊かになる言葉。

FAQ よくある質問

Q1. 頑張っても報われないと感じるのは、どうしてですか?

多くの場合、他者からの評価、感謝の言葉や反応だけを、 自分の価値を測る唯一のものさしにしてしまっていることが背景にあります。 相手の反応がない日も、あなたの頑張りそのものは変わっていません。 ものさしを一つに絞りすぎていることに気づくことが、最初の一歩になります。

Q2. 感謝されないとつらくなるのは、看護師や介護士に多い傾向ですか?

看護師、介護士、教員、保育士、相談職など、 相手の反応を受け取りながら働く仕事では、 他者評価と自己価値が結びつくことがあります。 これは性格の弱さではなく、 人に丁寧に向き合ってきたからこそ生まれる心の動きでもあります。

Q3. バーンアウトを防ぐには、何から始めればいいですか?

まずは、自分がどんな基準で自分を採点しているかに気づくことです。 「ありがとうがあった日は加点、なかった日は減点」というような 無意識のルールに気づくことは、 自分を苦しめていた仕組みを理解する手がかりになります。 そのうえで、他者評価だけに頼らず、 自分の仕事や行動を振り返る視点を持つことが、 長く働き続けるための土台になります。

Q4. 自己肯定感を高めるために、今日からできることはありますか?

大きな成功体験を探す必要はありません。 「今日、自分は何のために動いたか」を、 誰かの反応とは切り離して、自分自身の言葉で確認してみることから始められます。 相手からの「ありがとう」を待つのではなく、 自分自身に向けて認める言葉を持つことが、負担を減らす一歩になります。

Written by

柴田恵美 Shibata Emi

Embrace 主宰


看護師として13年、看護教員として17年、保健管理職員として2年、 30年以上にわたり医療・教育・人材育成の現場に携わる。 大学病院VIP特別病棟での勤務経験を持ち、 現在は医療的ケア講師として介護職の育成にも関わっている。 産業能率大学大学院で、非認知能力と人材育成をテーマに修士論文を執筆し、MBAを取得。 これまで4,000回を超える対話経験をもとに、 Embraceでは「違和感を自己理解につなげる」という視点から、 人のために働く人が自分自身を見失わないための言葉と対話を届けている。

その違和感には、まだ名前がついていないだけかもしれません。
Embraceは、その違和感を言葉にする場所です。

Embrace ― 違和感を、自己理解につなげる。

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